留められた夜
岡部淳太郎

怠惰な午睡のすえ
ふと目醒めると もう夜だった
開け放していたカーテンから
道の向こうにある家々の灯りが
ほわりと点っているのが見える
この選ばれたわけでもない 退屈のなかに
浜辺に打ち上げられたように留められている
他人事のように
自らのいのちを見守って
死なないために生きるだけの時間が
薄く拡がってゆく
この闇のなかに
留め置かれていることに
なんの罪もなく
夢見ることすら 既に放棄された
私が誰であるのかを
知ろうとしていた記憶は もはや過ぎ去り
夜の浜辺に またいくつもの心が
打ち上げられているのが
とおく感じられるだけだ



(2020年4月)


自由詩 留められた夜 Copyright 岡部淳太郎 2025-07-23 21:27:26
notebook Home