留められた夜
岡部淳太郎
怠惰な午睡のすえ
ふと目醒めると もう夜だった
開け放していたカーテンから
道の向こうにある家々の灯りが
ほわりと点っているのが見える
この選ばれたわけでもない 退屈のなかに
浜辺に打ち上げられたように留められている
他人事のように
自らのいのちを見守って
死なないために生きるだけの時間が
薄く拡がってゆく
この闇のなかに
留め置かれていることに
なんの罪もなく
夢見ることすら 既に放棄された
私が誰であるのかを
知ろうとしていた記憶は もはや過ぎ去り
夜の浜辺に またいくつもの心が
打ち上げられているのが
とおく感じられるだけだ
(2020年4月)