酷暑
夏井椋也


空から落ちてきた
一粒の火の粉が発芽して
庭に硝子の意志が蔓延った

温い月光を受け止めた
水盤には真鍮の孤独が湧き
何匹かのメダカが犠牲になった

溶けたアイスキャンデーの
「はずれ」と刻印された棒に
群がる蟻の大行列に加われば
きっとシャングリラに辿り着ける

纏わりつく湿気は想い出だ
鼻と口と毛穴を塞がれ
塩辛い罪が止めどなく流れ落ちる

何の試練なんだろう?
最早これは夏ではない
夏休みは永遠にやって来ない
麦わら帽子はもう消えた

いっそのこと
身体ごと溶けてしまえばいい

私が溶けたあとには私の形をした
虹色の水溜まりが出来るだろう

その中に転がっている
貧相な白骨の何処かには
「はずれ」が刻印されているのだろう




自由詩 酷暑 Copyright 夏井椋也 2025-07-23 11:59:22
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