酷暑
夏井椋也
空から落ちてきた
一粒の火の粉が発芽して
庭に硝子の意志が蔓延った
温い月光を受け止めた
水盤には真鍮の孤独が湧き
何匹かのメダカが犠牲になった
溶けたアイスキャンデーの
「はずれ」と刻印された棒に
群がる蟻の大行列に加われば
きっとシャングリラに辿り着ける
纏わりつく湿気は想い出だ
鼻と口と毛穴を塞がれ
塩辛い罪が止めどなく流れ落ちる
何の試練なんだろう?
最早これは夏ではない
夏休みは永遠にやって来ない
麦わら帽子はもう消えた
いっそのこと
身体ごと溶けてしまえばいい
私が溶けたあとには私の形をした
虹色の水溜まりが出来るだろう
その中に転がっている
貧相な白骨の何処かには
「はずれ」が刻印されているのだろう