灼熱地獄
花形新次
狂ったように
がなり立てて行く
選挙カーに向かって
唾を吐く
アスファルトから
凄まじい陽光の
照り返しを受けて
気が遠くなる前に
冷房の効いた
カフェに飛び込むと
頭痛がするほど冷えた
アイスコーヒーのグラスに付いた
水滴を指で拭いながら
これからのことを考えようとする
しかし、そんなことに
意味がないことは
もう分かっているから
必然的に気持ちは
ワイヤレスイヤホンから流れる
ポスト・クラシカルの
反復のメロディに
向けられる
「もう少し優しくなれたよな」
ちょっとした隙間に
そんな考えが浮かぶ
ダメだ、ダメだ
そんなことを考えては
過剰に優しい気持ちになるとき
人は必ず病んでいる
その優しさに
己自身が殺られてしまうんだ
世界は想像以上に冷酷だ
お前がお前自身を思うほど
誰もお前のことなんか
思ってはいないんだ
これから
気狂い病院に行って
死ねないだけの量の
薬をもらって来る
灼熱の地獄の中を