タニカワシュンタロウというなまえで生きていた人物へ捧げるエチュード
中田満帆
後頭部を撮影された老人、
謹呈された詩集をかならず読む老人
愛車モーリスはいつ廃車になったのか
かれの離婚届を詩集がわりに読むか否か
湖畔の嵐のなかで
うつくしい水鳥のような、
鮮やかな死が
タニカワ、
タニカワシュンタロウと連呼するなか、
ぼくは悼む気もなくて、
バーガーキングと呟いていた
それが正しい儀式であると、
強調する傍点をたずさえて歩きながら、
ぼくもおなじように連呼する
タニカワ、
タニカワ、タニカワ、
タニカワシュンタロウ、
シュンタロウ、
またの名をスピルリナ青色素だと
存在しないものの現実味について
しばし考える、
緑色の牛
ピンク色のコーヒー豆
蛇口からあふれたジンジャーエールや
軟質の生体プラスチックたち
いま署名を免れた者たちのなかで
たったひとこと、
「FIRE」とラベリングする青年よ、死ぬな
ぼくが手に入れた箱にきみの手が臭う
たったいま射撃されたような痛みを忘れないでくれ、
17系統のバスで逝ってしまった老人のように
ぼくは手をふった、
ぼくは連呼する
タニカワ、
タニカワ、タニカワ、
タニカワシュンタロウ、
またの名を「青は遠い色」と囁いた青1、
法定色素、別名ブリリアントブルーFCFだとね