雄弁で曖昧な結晶
ホロウ・シカエルボク


神経症的なスタンダード、初期設定値がそもそも狂気の側に少しだけ傾いている、厄介だけど留まろうとする努力の分だけ懸命になることが出来る、人間なんて少し壊れてるくらいがちょうどいい、電脳の空間に投げ捨ててきたものたちが俺を肯定する瞬間、内側で狂犬のように牙を剥き出しているものをなだめることが出来る、OK、見え透いた嘘なんか必要無い、剥き出しの牙と同じ白さで生きることが出来る、詩に向かう理由の根源にあるのは凶暴性かもしれない、野性と言ってもいい、それが最も適切に遂行されるツールが俺にとってはこういうものだっていう話さ、これまでに何度か話してきたことだけれど、俺が正気を保ち続けているわけはそうした手段を初めから持っていたからだ、その辺の馬鹿みたいに闇雲に自意識を振りまくようなみっともない真似じゃなくてね、その為に何をすればいいのかってことをきちんと理解していたってわけさ、なに、異論は認めるよ、でないと、異論しか唱えられないやつらが可哀想だからね…異論ぐらい言わせてやるよ、それがここ数年で俺が学んだことさ、わからないやつはわかっているふりをするだけでいい、それ以上にも以下にも行くことはない―いや、以下はあるかもしれないけど、まあそんなことどうだっていいか、俺の体内にはいつでも無数の言葉が荒れ狂っている、凶暴な亡霊のようなそいつらはいつだって出口を求めて咆哮している、振動が骨まで響いて煩わしいんだ、でも俺にはわかっている、そいつらが居るからこそこうしてここまで生きて来れた、どんな煩わしさも無しに成長など出来る筈もない、この人生にまだ先があるからこそ、そいつらは力の限り禍々しい声を俺に聞かせ続けるのさ、だから俺は書き続ける、もしもここで俺が手を止めたら内側からそいつらに食い破られるからね、どんな惨めな死を遂げることになろうと何も出来ない自分を肯定しようとは思わない、俺にはまだまだ出来ることがある、それを証明し続けるんだ、こうした羅列だって去年や一昨年に比べると全然違う、視点の置き方が変わった、力のかけ方が変わった、バランスの取り方が変わった、頭の片隅にぼんやりと見えているものとの違いを、二年ほど俺は感じ続けた、もっとあれに近付けるやり方があるはずだ、簡単に言うと、俺は力技をやめた、勢いで維持していたテンションを、もっと違う形で整えるようになった、思ったより時間はかかったよ、半年くらいは模索したんじゃないかな、誰にもわからなかったかもしれないけれど、とにかく俺はそれを手に入れたのさ、俺は今理想の先を歩いているんだ、どこかで型にはまろうとする自分が居る、出来上がってしまおうとする自分が居る、でもそこに陥りそうになったとき必ず、見たことも無い芽が顔を出す、そいつを見つめていると、自分がこれから何をすればいいのか自然に理解出来るのさ、何か目に見えない力が俺をそっちに引き込むんだ、半ば苛立たし気に、強引に、そして俺は目を覚ますのさ、ずっとそんなことが続いている、書き始めたころからずっとだ、書き始めたころにはブローティガンみたいなことをしてた、今じゃ到底信じられない、どこからどんな風に始まったって、結局は然るべき道へと足を踏み入れるのさ、その根拠はって?それは俺が無数に残してるものに目を通してみればわかるんじゃないか、肉体のそれとは違う、精神の成長速度は、時を重ねれば重ねるほど深度と速度を増していく、俺はわかったような口なんかきけない、わからないことを見つめている方がずっと面白いからだ、真実は常に変化し続けている、ある一点で捕らえたものが明日も通じると思ったら大間違いだ、先行きは出来るだけ不安であるべきだ、でなければ人は打ち勝とうとしない、適当なところで落ち着いた自分を慰めながら生きていくなんて御免だね、未来に挑めなければ過去を舐めるだけの暮らしになる、まあ、あれこれ御託を並べたけれど結局のところこれは一言で片づけられるんだ、その方が楽しいってね、常に先を探しながら歩いていると、目的の方からもこちらへやって来てくれるんだ、やあ、ありがとうと俺たちは悪手を交わし、新たな同盟を結ぶ、そうやって日々は更新されていく、もっと行ける気がするんだ、昔考えていたよりもずっと先のところへね、そっちから誰かが俺を呼んでいる、俺より先に死んだ誰かかもしれないし、俺たちよりもはるかに高次の存在かもしれない、俺はそいつの存在の詳細を知ろうとは思わないし、訊いてみる気も無い、あらゆる疑問には知る時期というものがある、浮かんだまま放り出していれば、時々の状況に応じて勝手に解答が閃くようになっている、もっともっと、地図に無い場所へ、前人未到の秘境へ、人が旅に出る理由なんて、知りたいものを全部知るために他ならないだろう、でも覚えておきな、知れば知るほど知らないことは増えていく、その果てしない追いかけっこに負けないように貪欲にならなければならない、一度でも降りたら二度と戻ることは出来ない、賞味期限がタイトなんだ、俺はまた新しい手段を得るつもりさ、いつでもそうしてひとつずつ増やしてきた、そしていつか必ず、その無数のやり口は、混ざり合って最適な形になるはずなんだ。



自由詩 雄弁で曖昧な結晶 Copyright ホロウ・シカエルボク 2025-07-20 14:42:13
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