そばにいて
リリー

 東の窓辺で目を覚ます
 ゼラニューム
 もどり梅雨の雨声が
 耳にしたしく寄ってくる

 麦芽のような珈琲の香りと
 かるくトーストしたクロワッサン
 昨日の埃とまざりあった
 私自身がふてぶてしく
 甘美な朝を演じて

 杳かなる夜半の夢と
 今をつなぐ銅の鎖のほどける音が
 固い路面に浸む
 私へ背中を向けて
 窓の外をながめている
 ゼラニューム

 小降りになって
 明るんできたから
 どこかに虹でも出れば
 誰かの朝を素敵にするかも
 あのガレージの水溜まりの側で
 羽繕いしている濡烏、
 これから恋人に会いに行くのかも

 ふと詰まらなくなる私の顔を
 横目に見る
 たわやかな美しさの赤い貴女は
 一言もなく凛として嗤う



自由詩 そばにいて Copyright リリー 2025-07-19 07:09:53
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