ハイランダーはまだ来ぬ
花野誉

本が来る

熱烈な片想いが成就するかのようで

子宮がゾワゾワする

浅い昨夜の眠り

今日あたり

恋しい本が来る

半眼で想う

(行ったことのない)スコットランドの風景

紫色に染まるヒース

神秘的な静けさを湛えるロッホ

断崖絶壁と紺碧の海

石の城 石の教会

真綿のような霧が立ち込め

鼻先にはエールの香りが漂ってくる

遠く鳴り響くバグパイプの音色

ときめきが止まらない

仕事から最速タイムで帰宅

ポストから二つの包みを引ったくる

一瞬 一抹の不安

いやいや、

もう すぐそこに

赤毛の雄々しい姿

濃い緑と茶のタータンをはためかせ

馬を走らせて

風の中で響くようなゲール語と

バグパイプの音色が近づく

あと少し

最後の砦は厳重でもどかしく

やっと梱包を開ければ

二巻!

まさか、ともう一つの梱包を開ければ

三巻!!

嗚呼───

膝から崩れ落ちる


一巻は明後日届くらしい

ハイランダーの腕に抱かれるのは

暫し おあずけ

こんなことで

一喜一憂している己が

幸せだな、と

二冊の本を抱え 

ぼんやり思う昼下がり





























自由詩 ハイランダーはまだ来ぬ Copyright 花野誉 2025-07-16 15:07:43
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