メモ(日記)
はるな


きったねぇ街だな、と、ふるちゃんはこの街のことを言う。そのくせ60年近くもずっとここに住んで、花を活けている。(途中、阿佐ヶ谷だの芦屋だのニューヨークだのに行ったらしい、そのどこでも花を活けていたんだって言う)、汚い街だ、と確かにわたしも思う。道のそこら中に空いた容器(瓶、ペットボトル、缶、カップめんの容器、パンの袋、「大五郎」の4リットルのボトルまで)があって、右へ左へ移動しながら増えていく。
日差しのあたらない路地のビルの非常用階段には、昼前になると4,5人の若いひとたちの群れがやってきて、昼過ぎになると消えている。

このあいだは「りよなちゃん」のバースデーで、ゆりをこれでもかと使ってアレンジを作った。30基以上ならぶとそれは壮観なんだけど、それより黒服の気になるのは札の高さと並び順のようで、あーでもないこーでもないと札を入れ替えては咲いてるゆりの花びらを散らかした。
花なんてだれもみてねぇよな。とふるちゃんは言う。でもわたしが見てます。と思う。(面倒くさいので言わない)。ゆりなので、香りが強くて、「りよなちゃん」がびっくりすればいいのにね。

そんでその二日後にはそれを下げてきて毟ってバケツをきれいにあらって、また違うこのお誕生日のアレンジを作るのだ。花なんてだれもみてねえんだよ。とふるちゃんがぶつぶつ言ってる。まだ咲ききっていないゆりをいくつか残して、うちにもって帰ってきて飾った。

だれかの物語のいちばん隅っこのところにいるのが落ち着くのだ。すこしずつ、いろんなだれかの物語に座って。
作っては壊して、また別の物語を飾りにいく。


散文(批評随筆小説等) メモ(日記) Copyright はるな 2025-07-15 14:17:17
notebook Home