White Surface Time
ひだかたけし
暮れなずむ夏の大空を仰ぎ見ながら
君と長く緩やかな傾斜を共有し
三鷹台の坂道を登っていった
あの時、何一つ言葉交わされなく
それぞれがそれぞれへの想い
それぞれに拡がり互いに響き来て
温もり浸透確かに交わり合い、無言
緩やかな傾斜の果て辿り着いた頂きで
よろけそうになった君の身体を支えた瞬間、
両手に感じた君の熱、すっと消え去る君の重み
*
剥き出し黄土の防空壕跡は無機質なコンクリート壁で覆われ
訪れた三鷹台はもう遠く 既に遥か現世の想い出
けれどもあの瞬間瞬間に包み込まれた想い温かみ
巨大化する資本に呑み込まれる前の魚屋や八百屋の賑わい
君は確かにあの時、
大根とアジの開きその他を買って坂道の頂きに至り、
今夜は細やかな晩餐よと何故か言ったんだ
掬い上げだ僕の腕に身を委ね切り
微笑みながら 優しく包み込む声で
薄っすら紅に染まった白雲見上げ
涼やかになった風に揺らぐ風鈴の如き
終わらない声音の確かな意味響かせて
僕の知らない最期のお別れのために
暮れなずむ夏の大空を頂きから仰ぎ見ながら
今夜は細やかな晩餐になるんだよと風鈴の声音響かせて