ソフトボール
凍湖

あおい空と山なりに投げられた白いボール
以前、ソフトボールのチームの練習にまぜてもらってたことがあった

わたしはまったくの初心者でバットの握り方も知らなかった
そこは野球をちょっとでも知ってる人は即戦力で
わたしのようなド素人もノック練習で7回ボールを跳ね返さなければいけない
ピッチャーはたいていモリオカさんで
モリオカさんは下卑たことはいっさい言わないで、フフという笑い声が印象的な人だった
モリオカさんはとてもうまくて
わたしでも打てる球をやさしく投げてくれた
わたしが空振りしても笑ってやさしい球を何度でも投げてくれる
かれと
おそらく
最期に話したのはわたしだった

電話口で「まつげが逆さまで目が痛くてつらい」という内容のことに
「手術までがまんですね」というようなことを返したと思う

その数日後、倒れてるかれが見つかった

その報せが来た日
かれをよく知ってる人がじっと口を引き結んで透明な涙を流していた

かれのさいごの会話で
もう少しマシな返しはなかったのか
わたしはそれが〝しごと〟だったのに

あの日、乾いたマウンドの上で
かれの純粋なやさしさでくれた球に報いる
そんな返球ができていたら
かれのこの世のさいごをもっとマシにできていたら


いつだってどれがさいごの球になるかわからないまま
マウンドをおりることもできない
そのこわさは夏の草の色をしている


自由詩 ソフトボール Copyright 凍湖 2025-07-14 01:11:21
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