風と桑
月乃 猫

アカゲラについばまれた

桑の木 ハチワレの

地球のような球体の眼は 風の色をうつし、

木陰はさらさらと葉を揺らす

不安や恐怖が 世界を委縮させていく

怒りは人を疲弊させ

涙は悲しみの比重をました 

寂しさに腐食した空気は、

あらたな層をなしてすべてを覆った

抗い 木漏れ陽に風はそれを払拭する

ひととき 忘れてしまう

枝をからませる桑の木の招待状

実を赤くし 待ちこがれた生き物たちをさそい

鳥たちは 喜びに声をあげ

サルの群れの拙攻は、その実りを確かめる

家猫はわずかばかりの野生に 木に登り

香りに黒い鼻をならす

人もその実を手に取り 酸味のある救いの甘さを確かめる

夜 アシュファルトに蹄を響かせ

むく毛の角の小鹿も

落ちた甘露の実を咀嚼する

それゆえに この現世が限りなく救われた

それなのに 誰も

ただ実を実らせる桑の木も 風も 生きものたちも 

どうしてか それを知ろうとしない




自由詩  風と桑 Copyright 月乃 猫 2025-07-09 22:57:34
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