風と桑
月乃 猫
アカゲラについばまれた
桑の木 ハチワレの
地球のような球体の眼は 風の色をうつし、
木陰はさらさらと葉を揺らす
不安や恐怖が 世界を委縮させていく
怒りは人を疲弊させ
涙は悲しみの比重をました
寂しさに腐食した空気は、
あらたな層をなしてすべてを覆った
抗い 木漏れ陽に風はそれを払拭する
ひととき 忘れてしまう
枝をからませる桑の木の招待状
実を赤くし 待ちこがれた生き物たちをさそい
鳥たちは 喜びに声をあげ
サルの群れの拙攻は、その実りを確かめる
家猫はわずかばかりの野生に 木に登り
香りに黒い鼻をならす
人もその実を手に取り 酸味のある救いの甘さを確かめる
夜 アシュファルトに蹄を響かせ
むく毛の角の小鹿も
落ちた甘露の実を咀嚼する
それゆえに この現世が限りなく救われた
それなのに 誰も
ただ実を実らせる桑の木も 風も 生きものたちも
どうしてか それを知ろうとしない