凍湖

朝はカーテンをあけて
サッシに硝子板をすべらせて風を入れる

法律上
窓のない部屋は部屋ではない
そこは物置で
人の住むところではない

では窓のない土地に住むひとは?
四方八方を壁に囲まれて
ミサイルや銃弾や白リン弾をうちこまれ
それでも
その土地できれいな水を求め
食糧を求め
傷の手当を望んでいる人びと

わたしはそれをインターネットで断片的に知る
internetという単語は
inter:相互の
net:網
と分解できる

つまりわたしが見るとき
あちらも同じ網のすき間から
こちらを見ている
必死なまなこで

わたしのInstagramのストーリーに「help me」とコメントする高校生がいる
そのひとの名はhala
halaの投稿は
「please help me, I will not forgive anyone who can help me and did not help me」で終わっている

〝助けられるにも関わらず助けなかったものをだれも許さない〟


たとえわたしが
現地へ多少の寄付をしているからといって
それがなんだというのか

わたしに命綱になれるほどの勇気はなく
いまを生きるhalaの悲痛な声に応えられないまま
同じ風がわたしとhalaの窓のカーテンをゆらす

わたしのストーリーに刻まれた
〝だれも許さない〟
窓ごしにhalaが投げ入れたもの
生涯消えることはない深度に


自由詩Copyright 凍湖 2025-07-09 14:41:02
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