熱帯夜
りつ

全部夏のせいにして
逃げてしまおうか



あのひとが
優しく笑うものだから
わたしは素直に頷いた


     遠くへ行きたい

そんな想いが重なって
わたしたちは
手と手を
強く握りしめ
夜の無人の駅へと駆け出した


星も見えない静かな夜だった

アスファルトに座り
胸をゆっくり上下させながら
わたしたちの
羽化が始まった
固く閉ざしあったこころが蛹となり
雄と雌として孵るのだ
一夜だけに咲く月下美人に看取られながら
芯の部分が融けだし
とろりとろり
核を滴らせ
熱くて熱くて
繋いだ手から同化し始め
もう二度と離れなくて済むように
あなたとわたしを捨てるのだ



始発がやってきた


暑い夜よりも尚熱く
わたしたちは最後のくちづけを交わした


自由詩 熱帯夜 Copyright りつ 2025-07-09 05:01:43
notebook Home