熱帯夜
りつ
全部夏のせいにして
逃げてしまおうか
と
あのひとが
優しく笑うものだから
わたしは素直に頷いた
遠くへ行きたい
そんな想いが重なって
わたしたちは
手と手を
強く握りしめ
夜の無人の駅へと駆け出した
星も見えない静かな夜だった
アスファルトに座り
胸をゆっくり上下させながら
わたしたちの
羽化が始まった
固く閉ざしあったこころが蛹となり
雄と雌として孵るのだ
一夜だけに咲く月下美人に看取られながら
芯の部分が融けだし
とろりとろり
核を滴らせ
熱くて熱くて
繋いだ手から同化し始め
もう二度と離れなくて済むように
あなたとわたしを捨てるのだ
始発がやってきた
暑い夜よりも尚熱く
わたしたちは最後のくちづけを交わした