元気な花
リリー

 
 京阪電車の線路沿い
 車道を跨いだ無地の五線譜に
 音符が一拍、陽射しで霞み
 黒い羽をひろげて飛びたった

 窓越しに流れる炎昼は
 人通りもなく
 『割烹あんど喫茶』の看板を掲げる
 三階建てで白壁の店屋
 格子戸のわきにビビッドオレンジの
 ハイビスカスが豊麗な居姿で
 太陽の化身の様

 このとき、心は
 ハイビスカスに寄りかかり
 心地よいエナジーの漣が
 すぼんでいた肩を開かせて
 ほんのつかの間
 抱きこんでみる夏の虚像のすがすがしさ

 昏みゆく休日の街
 通りぬける近所の公園に
 梅雨の尻尾をちょん切る勢いで
 もう、咲いているキバナコスモス
 
 たどり着く玄関を開けたら
 閉め切ってあった暑気がかしこまって
 「今、お帰りですか」と
 問いかけてくる
 あわてて扇風機を回し、
 開け放った窓から追い出してやった
 
 
 


自由詩 元気な花 Copyright リリー 2025-07-06 10:45:53
notebook Home