放浪の篭球 ~踊ろうマチルダの歌で天国を通過する~
菊西 夕座
箒川を渡って
俺は俺を続けるよ
心をあの場所に残したまま
踊ろうマチルダ『箒川を渡って』
バスケットは得意じゃないけれど ショットをねらうなら天国だって
ドリブルしてたら転がっていく あてどのない魂が
ドぅム、ドぅム、ドぅム、ドぅム、リバウンド。
やむことないまま弾んでは 鼓動のかわりにダンクショット!
堅固な守備隊をすりぬけて ゴールするのが醍醐味だから
過密な仕事の合間をぬって 言葉のネットをあみあげる
天使のリングに髭みたく ネットをたらせばゴールの完成
命が尽きても言葉にのって 脈拍がわりにステップショット!
老朽したら死んでおしまい なんてコートを外れた戯言さ
踊ろうマチルダの歌きけば ハートは弾む篭球で
ドぅム、ドぅム、ドぅム、ドぅム、リバウンド。
理不尽な雨がふってきたら 声をかさねるあんたにパスさ
決めてしまってくれないか 穴のあいてるゴールが天国
ザっパって音でネットをくぐれば 魂は天数にめぐまれる
天の数がふえていくほど 放浪の地平もひらかれて
すりぬけ上手な魂が どこまでだって転がっていく
「行こうマチルダ口ずさみながら 目的地まではほど遠い
踊ろうマチルダ口ずさみながら 道にはぐれてしまわないように
遺構マチルダ口ずさみながら 目的地なんてどこにもないさ
踊ろうマチルダ口ずさみながら 未知にはぐれてしまわないように」
星降る億千の光は ドリブルしている天使のボール
人の最期だけが上手に跳ねて 浮世ばなれのロングショット!
理不尽な雨もいつかやみ 空へと帰るリバウンド
やがて地球が回転すれば 太陽光線の反射ショット!
不毛な岩や鉄屑や 月の光がさしこむ窓の亀裂
視線をぬってよく見れば 岩にも岩の顔があり
鉄屑からは赤さびが歌い 窓の亀裂も涙を流す
踊ろうマチルダ口ずさみながら 死んではいない影たちと
ドぅム、ドぅム、ドぅム、ドぅム、星降る夜に
温泉がわくような地割れ声で マチルダが愛を歌う
頭の中を巡るその歌が 哀しみの間欠泉を噴きあげて
ドぅム、ドぅム、ドぅム、ドぅム死を沸かす
ぐつぐつ煮えるあぶくこそ 地にふさわしいドリブルさ
測って放つショットこそ バスケの悲願というのなら
墓をたたえる技となれ 憧れのピラミッドダンク!
巡るドルメンショット! 放浪の果ての奈良古墳ボム!
命がないというものたちに 命を吹き込む熱視はやがて
命のついえた地平にも ドリブル反射するだろう
ぶくぶく沸き立つ燃焼に 勢いづいた魂が
蒸気となって小躍りし ふたたび果敢なスラムダンク!
何度だってすりぬける 天国だって通過する
荒ぶる声で歌っておくれ 頭のなかをドぅム、ドぅムと
狂おしいくらに連綿と めぐって跳ねるマチルダの歌
不条理な雨がふってきたら 声をかさねるあんたにパスさ
とじた傘をひろげるように パスを返してくれたなら
決めてみせるよ逆転の スリープポイントショット!
スリープの中にも神のご籠 髭をすりぬけ揺りかゴー
やがてふたたび目覚めたら 産声あげてダンクショット!
腕を垂直に伸ばしては スナップきかせてボールを放つ
ちょうどそんな腕みたく 路上に突っ立つ街灯が
鎌首もたげたようにして ショットを放ち止まってる
そのうつむいた手のひらから ゴールへの確信が降り注ぐ
「行こうマチルダ口ずさみながら 目的地まではほど遠い
踊ろうマチルダ口ずさみながら 道にはぐれてしまわないように
行こうマチルダ口ずさみながら 目的地なんてどこにもないさ
踊ろうマチルダ口ずさみながら 道にはぐれてしまわないように」