素顔
リリー


 化粧水を浸したコットンパフで
 やさしく押さえる目元や頬に
 いつのまにか
 またシミがひろがっている

 ささくれ立つ気持ちの
 燃えのこる夜
 シーリングライトで照らされる
 昼間の虚飾を剥いだ顔は
 赤色土の地層を露わにした山はだを
 転がり落ちて崩れた石が
 砕けて角のとれたものかもしれない
 指先の皮膚で感ずる
 石の渇き

 これこそ、眼の前にすえる
 てめえの顔だ
 メイクボックスの鏡を覗けば
 どろんとした暗鬱な沼地の辺りから
 小さな青空が見えて
 白銀の剣のように風を裂く
 夏つばめ

 このあいだ染めた髪の
 しいんとしたコスモスに光る
 あの星屑は、どれだけの歓びを
 憶えているだろう
 ひとりさめて
 微笑むこともできないでいる


自由詩 素顔 Copyright リリー 2025-07-05 07:05:31
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