サイダーとほおずき
そらの珊瑚

庭先に咲いていたのはほおずきの花
日常からわずらいを引き算したような
うすい黄色の小さな宇宙
秋になってそれは赤く実籠る

ほおずきの実には毒があり
かつて堕胎するために使われたと知ったのは
あれからずっとあとだったようにおもう

伸びきって
ぼうぼうになった芝生の上に敷いた
ゴザの上に寝そべると
やわらかなイグサで編んだそれは
たよりなげな舟になった
宿題をほっぽって
短パンから伸びた白い脚に
サンオイルを塗り
太陽が
じりじりと焦がしてくれるのを待っていた
自ら望んだそんなバカバカしい
汗と油まみれの苦行を
冷蔵庫で冷えたサイダーが待っていると思って耐えた

黒い時代のあとに
肌の白さがもてはやされる時代になり
大人になったわたしは身籠り
苦行のような悪阻が始まった
梅雨明けに日傘をさして歩けば
ヒトガタの墨色の影はひとつだけだ
(太陽がうつしだすのは命ではなく、形)
焼けたアスファルトに浮かぶ舟の
めまいのようなゆらぎ







自由詩 サイダーとほおずき Copyright そらの珊瑚 2025-07-04 10:57:15
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