とっても有名な蠅なのよ。
田中宏輔
とっても有名な蠅なのよ、あたいは。
教科書に載ってるのよ、それも理科じゃなくって
国語なのよ、こ・く・ご!
尾崎一雄っていう、オジンの額の皺に挟まれた
とっても有名な蠅なのよ
あたいは。
でもね、あたいが雄か雌か、なあんてこと
だれも、知っちゃいないんだから
もう、ほんと、あったま、きちゃうわ。
これでも、れっきとした雄なんですからね。
フンッ。
(あっ、ここで、一匹、場内に遅れてやってまいりました!
武蔵の箸に挟まれたという、かの有名な蠅であります。)
──おいっ、こらっ、オカマ、変態、
おまえより、おれっちの方が有名なんだよ。
あたいの方が有名よ。
──なにっ、こらっ、おいっ、まてっ、まてー。
(あーあ、とうとう、ぼくの頭の上で、二匹の蠅が
追っかけっこしはじめましたよ。作者には、もう
どっちがどっちだかわかんなくなっちゃいました。)
(おっと、二匹の蠅は、舞台を台所に移した模様です。)
──あっ、ちきしょう、こりゃあ、蠅取り紙だっ。
いやっ、いやっ、いやー、羽がくっついちゃったわ。
(そっ、それが、ごく自然な蠅の捕まり方ですよ。)