とっても有名な蠅なのよ。
田中宏輔


とっても有名な蠅なのよ、あたいは。
教科書に載ってるのよ、それも理科じゃなくって
国語なのよ、こ・く・ご!
尾崎一雄っていう、オジンの額の皺に挟まれた
とっても有名な蠅なのよ
あたいは。

でもね、あたいが雄か雌か、なあんてこと
だれも、知っちゃいないんだから
もう、ほんと、あったま、きちゃうわ。

これでも、れっきとした雄なんですからね。

フンッ。

(あっ、ここで、一匹、場内に遅れてやってまいりました!
 武蔵の箸に挟まれたという、かの有名な蠅であります。)

──おいっ、こらっ、オカマ、変態、
  おまえより、おれっちの方が有名なんだよ。

あたいの方が有名よ。

──なにっ、こらっ、おいっ、まてっ、まてー。

(あーあ、とうとう、ぼくの頭の上で、二匹の蠅が
 追っかけっこしはじめましたよ。作者には、もう
 どっちがどっちだかわかんなくなっちゃいました。)

(おっと、二匹の蠅は、舞台を台所に移した模様です。)

──あっ、ちきしょう、こりゃあ、蠅取り紙だっ。

いやっ、いやっ、いやー、羽がくっついちゃったわ。

(そっ、それが、ごく自然な蠅の捕まり方ですよ。) 


自由詩 とっても有名な蠅なのよ。 Copyright 田中宏輔 2025-06-30 15:09:31
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