アパートメント
そらの珊瑚

真夜中に稲光で目覚めた
とおもったけれど
ふと目覚めたらたまたま雷が光ったのかもしれない
きれい、と怖れ、は
ちいさな箱に同居してる双子

エレベーターに「故障中」の張り紙が貼られている
もう何年も
誰も乗ったことがないから
それがエレベーターだということも忘れそうだ
エレベーターでなかったらなに?
それが秘密の箱だということは秘密

隣の箱に引っ越してきたのは
苦しみだった
悲しみだったかもしれない
廊下で会ってもしらんふりをきめこもう
話しかけられないように
出かける時は
イヤホンを耳に詰めよう

中庭の池に睡蓮の花が咲いた
池の水はとうに干上がってしまったというのに
まだ世界は終わらない
本当は咲いてはいけない場所なのに
きれい、で、怖ろしい

管理人がまた
階段の踊り場にある
鳩の巣の駆除をしている
生まれたばかりの雛もおかまいなしだった
根本的な問題解決にはならないから
長靴の足元は泥沼だった
ご苦労さまですと頭を下げると
今日の晩御飯はなんですか、ときかれた
今、身体が弱っているので
ことごとく破壊をキメたものにします
アンデスメロンとほうれん草をミキサーにかけたものを食べますと答えた
正しくは飲みますですね、と訂正したが
管理人の瞳はわたしの肩先をすり抜けて遠くの闇を見ていた
聴こえていないのかもしれない
もしくは壊れているのかもしれない
管理人の耳にイヤホンが詰まっていた

雷が光るたび
増殖していく箱たち







自由詩 アパートメント Copyright そらの珊瑚 2025-06-27 21:19:51
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