静黙
リリー


 小さな瓦屋根の付いた
 土塀が続くわき道で
 赤い郵便バイクとすれちがう

 黄土色の築地塀はひとところ
 くずれたままになっていて
 原付のエンジン音が
 その空隙から逃げていった

 あいているそこからは
 雑木の葉ずれの音しかきこえない
 そっと後をふりむくと
 観光客らしき人はひとりも見えず
 なんの思い出も無い古道で
 湿った埃のにおいを嗅ぐ
 犬のように佇んでいた

 梅雨の明るい落日
 にじんでくる額の汗を拭い
 見あげる白っぽい雲の切れ間に
 錫色のダリアが、一輪咲いている

 自在な旅を終えようとする
 空虚さに苦い草を喰む
 きれいに語れない言葉が降りてきて
 そら耳でいいから、
 私の生きかたと
 身をよせあって手を振ってくれる
 こだまを聞きたい

 


自由詩 静黙 Copyright リリー 2025-06-27 13:25:05
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