海岸駅
たもつ



電車に乗ると
二つ先に海岸駅という名の駅がある
海岸駅、と言っても
降りてから海までは男の人でも
歩いて三十分以上かかる
近くまでたどり着いても
海岸線に沿って細長く続く
フェンスに囲まれた国関連の施設や
防風林に阻まれて
海を見ることはできない

地元の人間なら知っていることだが
時々、土地勘のないと思しき人たちの
 海岸に行ってみたいね
 海岸って素敵だよね
などという会話を
電車内で聞くことがある
微笑ましくもあるけれどその度に
もっと他のことを話せばいいのに
と思ってしまう
それでも海岸駅を過ぎてしまえば
 あれは美味しかったよね、とか
 あれは偽物だよね、とか
普通の話をするようになる
海岸とはそのようなところ
多分、地元の人間にも忘れられたところ

海岸駅に着いたので電車を降りて
小さな改札口へと向かう
毎日少しずつ何かを失っている
それは身体の一部だったり
他のものだったり
大切なものだけではなく
大切にしていなかったものまでも
海が見たい
海岸駅というのだから
きっと海が見える



自由詩 海岸駅 Copyright たもつ 2025-06-25 07:40:41
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