冬夜 歩み うた(六十・六十一)
木立 悟






階段に
月の花びらが落ちている
けだもののまばたきの前を過ぎ
けだものの舌に拾われる


何も無いところに花びらを見るものなど
邪険に扱ってもいいのだ
邪見に扱うことで
得られるものもあるだろうから


夜は縮まり
右のふくらはぎを流れ落ちる
さらさらと
さらに小さく


紅い夜は
雪の夜
ひとつの窓の
曇の夜


花の本を持つ子と
葉の本を持つ子
羽の本を持つ子
金の径の本を持つ子


鉛の朝陽
鉛の影
けだものの足跡
鉛の雪


舞い降りる鳥を数えつづけて
まだ数え終えない
青空が冷える方へ
夜は散ってゆく


冬の最後の手招きが過ぎ
人は落書きを残しては去る
夢をよく見 忘れる日
明るい曇の日 虚ろな日


ほつれた空の
逆さの太陽
分かれ 分かれ
増えてゆく


月を埋めて 月を埋めて
いくつもいくつも
月の上に月を埋め重ねて
それでも枝の間を疾る火


骨と鉱の浜辺
海と陸を分ける岩
月日が月日に
流れ落ちる


光が光の後を追う
花と羽が降りつもり
凍り 踏まれ はじけ 消える
凍り 踏まれ 砕け またたく


虹と遊ぶ二羽の鳥
橋を越える光の子の群れ
星から降りる光と 涙から昇る光がつながり
空をつらぬくうたになるうたになる





















自由詩 冬夜 歩み うた(六十・六十一) Copyright 木立 悟 2025-06-22 22:00:14
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