蜆蝶
リリー
地上のある一部の上を
浮遊しているシジミチョウ
少し伸びている青芝には
いちめんの陽射し
こめかみを撫でる風と
こうしていま、私はひとりで
ビルの壁際に沿った歩道を歩き
風景を所有している
サックスブルーの小さな翅が
ひらひら舞うのを目で追うごとに
おぼろになって
ついには消えて
あとにのこされた芝が見たこともない
蒼海の様で
胸を染められながら
なぜかはっきりとする足もと
通勤の人影が前方へ流れてゆく
この地上のある一部の上を、
道だと思ってしまうと
道はかたちを与えられて
なおさら道になろうとして
たえず苦しんでしまうのだ
浴びている光に翅の輪郭も透けてしまう
あの光耀は、何処へ
彷徨っていったのだろう
私の意識と肉体は、
詩にもなり得ないところで軋み
小さな溝川に沈む悶えを
今日もなだめて笑っている