乾いたオアシス
リリー
「この靴みて!」
靴底の端が切れてパカッと割れた状態になっている
スニーカーを私へ差し出して
「朝は、こんなんになってなかったわ」
悪戯だと思い込み反応をさぐる様な彼女の目付き
勤務先の建屋で更衣室も兼ねた詰所の利用者は三人
「だれがそんなモノ触るんですか?」
靴底のゴムなんて湿度や乾燥で自然に割れること
ありますよ
軽く突き放す口調で説明すると
彼女からは何の返答も無く
午後の休憩時、私と同じ部署に配属されている
もう一人の詰所の利用者である先輩と二人きりのタイミングで
この話を持ちかけた
「きのう、また始まったんですよ!」
以前にも、彼女は
(鞄にカッターで切られたような傷がついている)
(長傘の骨が折られた)
(机上の私物が触られていて長い黒髪が落ちていた)
詰所で私が席を外している間に先輩へ
「あんたがしたとは言うてない」
と、一方的な私への言いがかりを口にしたらしい
それを聞いた先輩は管理職のチーフへ報告し
事実確認をされた上司からは
「何言われてもほっとけ」
とだけ言われて
彼女へは私物をすべてロッカーへ蔵い
鍵を掛けるように指示された
「今日は、だから靴もロッカーに入れてるやん」
「ほんまやな、いつも机の下のボックスに置いてたのに」
昼食を済ませて化粧室で先輩と声をひそめて話す
そして詰所で彼女といる時には
然りげ無く換気する。