とばり
武下愛

今ではとばりなのか、とばりがなんなのかわからない。まだ息をしていた頃。ほんのわずかな間に変質したリンゴ。錆びたナイフ。傍に無い全て。世界が異質なのか異質なのがとばりなのか分からない。

降り続ける雨が川になって雨はいずれとばりと同化した。とばりがあるからこそ、明るさが際立つのだろうか。翳りすら無いというのに。深い暗闇だけが満たしている。

離せない全て。ただただとばりに飲み込まれて。消えてった。消えてった。


自由詩 とばり Copyright 武下愛 2025-06-19 23:42:44
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