HE HAS JUST BEEN UNDER THE DAISIES。
田中宏輔
きみは海を見たことがある?
(パヴェーゼ『丘の上の悪魔』10、河島英昭訳)
ぼくは
(サルトル『アルトナの幽閉者』第一幕、水戸多喜雄訳)
バスで行くことに決めた。
(カミュ『異邦人』第一部、窪田啓作訳)
『イメージ・シンボル事典』で調べると、雛菊は春に咲く最初の花なので、天の庭を埋める花として絵に描かれる、とある。『カラー・アンカー英語大事典』によると、雛菊が地面近くに咲くことから、under the daisies が「葬られて」「死んで」という意味になったという。春のはじめに見た雛菊は、踏んでおかないと、その人が愛する人の上に雛菊が生える、つまり、死ぬ、という言い伝えがある。こころやさしい瀬沼さんのことだから、野に咲いた雛菊を踏みつけることなどできなかったのだろう。
ふと
(ホーフマンスタール『アンドレアス』大山定一訳)
目の前に
(ル・クレジオ『海を見たことがなかった少年』豊崎光一訳)
極上の麻の白いハンカチが現われた。
(ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』11、鼓 直訳)
亡くなる一週間くらい前でしょうか。瀬沼さんから電話がありました。いつもより長い時間しゃべりました。おもに、詩についてですが、たくさん話をしました。そのときに氏の新しい詩集の話もしました。ぼくは言いました。「まるで小説のような印象を持ちました。すぐれた小説のような。」と。彼は、ぼくの言葉を素直に受けとめてくれました。ぼくの真意はちゃんと伝わったようです。さっき、久し振りに電話をかけてこられました。天国の庭からです。新しい電話番号を教えてもらいました。
バスを待つ行列の
(原 民喜『夏の花』)
あいだを
(ワイルド『サロメ』西村孝次訳)
白いハンカチが、ひらひらしながら遠ざかって行くのを眺めた。
(モーパッサン『テリエ館』2、青柳瑞穂訳)