牛舎ざわめく備蓄米
イオン

「さっきのラジオニュースどう思う?」
「備蓄米放出のことだよな
 俺たちが食べているエサが
 五年の保管期間を過ぎた米だったとは
 知らなかった
 人はどこまで鬼畜なんだ!」
「おい鬼畜って言うのは
 人を人とも思わない残酷さのことで
 俺たち牛だからさ」
「ごめん、ごめん」

「地震とかの緊急時に備えて二ヶ月分
 毎年二十万トンで百万トンを貯めているが
 今回は七十万トンまで放出するらしい
 今年は七月に巨大津波が来るかもと言われているのに
 残り三十万トンでは二週間分しか持たないって
 さっき、おやじと役人が話していた」
「そうか、と言うことは
 いずれ俺たちの食べる備蓄米がなくなって
 新米が回ってくるかも?」
「そういう事にはならない
 海外産のトウモロコシが増えると思う」
「でも、保管期限の短い備蓄米が
 食べられるかもしれない
 おいしそうな話じゃないか!」
「新しい備蓄米から放出しているから
 あと三年は五年の保管期間のままだ
 そして俺たち肉牛は二年で出荷だから
 おいしい米を食べられないまま
 人に食べられる」
「ちくしょう!」
「あぁ、俺たちは畜生だからな」

「もっとおいしい米を食べらせれば
 俺たちの肉もおいしくなるのに
 そんな簡単なことも分らないのかな?」
「分からない
 おいしくなっても高けりゃ買わないし
 味が落ちる備蓄米を買う人は
 俺たちより豚肉を選ぶ」


自由詩 牛舎ざわめく備蓄米 Copyright イオン 2025-06-07 12:57:34
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