憧憬通信 2021春    蒼風薫    
梅昆布茶2



炬燵出す心のどこか片隅に

あたらしいバイクの走る冬の街

猫座る手編みのかごのお正月

クロネコのトラック明日はクリスマス

偶然を必然としてポインセチア

冬鳥の鳴く樹の下で待ちぼうけ

ロンドンを行く君もきっと冬帽子

弾く君は窓辺が似合うカプチーノ

黒猫のラベルかわいい冬夕焼



博徒(ある日の)


『死んじゃえっていう訳』
『別にそんなこと言ってない』
『そう言ったも同じじゃん』
『そんなつもり全然なかった』

いくら続けても同じこと
わかりあえる術はない
言葉ってそんなもの
それでも詩人はたましいを賭ける




雀、悔いなく


鷹が雀を産んだ
鷹はとっても悲しんだ
鷹は雀をわが子と認められずに
鷹は雀をみなしごにした

雀が鷹から生まれた
雀はそれを知らなかった
雀は親を恋して探して
雀は諦めないままその生涯を悔いなく閉じた




木香薔薇の洋館


木香薔薇がゆるされるほどの塀にアーチ、
くぐってドアを叩くが  大きな洋館
やっと我に返って呼び鈴だと気づいた
鳴らすが、待っても静かなままだった

身なりは精一杯に整えている
精一杯だった  ここまで来るのも
何もかもを売り尽くして切符を買って
この街に辿り着き、 帰りのことは考えていなかった

日も暮れて木香薔薇はしばらくライトアップ
されていたが
 やがて消え  夜の中取り残される形と
なったわたしは
、叫んでみた  開けてください! 開けてください!

 開けてください! 開けてください! 開けて!

 未明まで待って諦めてわたしは明らめてそして

無事に身元不明の川流れとなり
川流れとなり

ママ!


偲ばれる墓標


白菊の歌声が
偲ぶあなたの
墓標前にて
一人雨に
濡れながら
西脇の詩集を
繰ってみる

詩のまことが
溢れますように


紅の傘は
忘れられて
かなしく倒れて
朽ちてしまいたいと
言っている

雨ならまるで
永遠を知っているかの
ように
ひたすらに
続いてゆく

まるでわたしの
やまないなみだの
藍のように

銀のように


自由詩 憧憬通信 2021春    蒼風薫     Copyright 梅昆布茶2 2025-06-04 15:54:33
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