船になる
夏井椋也


ときどき船になる

ただ流されるだけの
木の葉ではなくて

川を下る船になる

くぐった橋を数えるだけの
泡ぶくではなくて

時を忘れた船になる

舳先にとまったユリカモメの
水先案内を見過ごして

たかが5,4ノットの
ささやかな波をたてて

誰かを乗せたり
乗せなかったり

岸辺の日常が手を振るのを
船上の非日常が手を振りかえしたり

ときどき船になる

今にも錆びつきそうな
エンジンの鼓動を確かめるために

川を下る船になる

しだいに濃くなる潮の香りの中に
川の終わりを予感するために

まだまだ遠い

はずだ




自由詩 船になる Copyright 夏井椋也 2025-05-31 11:15:56
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