小説「火星侍、宇宙へ行く(仮称)1」
aristotles200
・火星、ユートピア平原の中央にある中央都市ユートピアの辺境で僕は生まれた。
・祖父は地球のNipponオサーカシ生まれで、第二次植民計画で火星にきた。
・植物プログラミング技士は、祖父、そして父、私の代々の仕事だ、まあまあ上手く生きている。
・祖父は、仕事に誇りを抱いていた、そして父も、しかし僕は、今一と思っている。
・既に火星は終わった星、これ以上のテラホーミングも効果はなく、地下資源も底を尽いている。
・時代は小惑星だ、〈16〉プシケ(psyche)や、〈25143〉イトカワ(itokawa)の重金属争奪戦。
・僕もこれ以上増えもしないコケ植物に、祖父や父のように一生を捧げる気はない。
・宇宙開拓時代の幕開け、中古の宇宙船で未知の小惑星を発見し、資源を独占する、夢じゃない。
・でも、しがない火星の農民に、そのチャンスは、多分ない。祖父や父のようにだ。
・それでもある日、チャンスが訪れる、聞いたことない開拓宇宙船が、植物プランナーを募集している、とD−159地区で酒場を経営している叔父さんが聞いたのだ。
・祖父も父も、孫が、息子が、火星の農民になる、一生コケ栽培をすることに否定的であることは理解している。
・幸い、僕には弟が一人いて、コケマニアで毎日新種のコケを生み出そうと四苦八苦している、火星に一生居ても幸せを掴めるタイプだ。
・そして祖父と父は険しい表情を浮かべ、僕を呼び出し、厳かに告げた、止めても行くのだろう。
・僕は黙ったまま深く肯いた。長い沈黙のあと祖父はいう、お前にはNipponオサーカシに伝わるコブドーを幼い頃から教えてきた。
・テーザー銃の時代に、コブドーはナンセンスかも知れんが、必ずやお前の身を守れよう。
・良いか、我がスズキ家の名に恥じぬよう、Nipponオサーカシのブシとして、規律を破ってはならぬぞ。
・父は古風な、表面が木で出来た脇差を僕に渡す。イチローよ、家宝の「オニマルクサンツナ」である。大事せい。
・こうして、ボストンバッグ一つと家宝の脇差とともに、僕は家を出て叔父のところに向かった。