歩く
高林 光

ずいぶん昔の自分の詩を
読み返すことがある
ちょくちょく読み返して直したりすることもあれば
十年ぶりくらいに掘り出してきて、ただ
読んでみたり
いいとか、わるいとか
そんなことも思わずに
昔の写真を見返して、
ああこんなこともあったなと懐かしむような
そんな気分に近いのかもしれない

娘がプロポーズをされたらしい
らしい、というのは、直接聞いたわけではないことを表しているのだが
さて、どうしたものか
くらいは考えてみる。父親として
さすがに早いんじゃなかろうか、とか
相手はどんな奴なんだろう、とか
外に出て星空の下で
煙草をふかしながらひとしきり頭をめぐらせてみたのだが、
そういえば昔
娘が高校生くらいの時に書いた詩があったなと思いだして
スマホを手繰ってみた

娘は今年高校一年生だから、そろそろ彼とこういうカフェでお茶を飲むなんてことがあってもいい。そう思ったのだが、考えながらふと、そういえば世間一般でいう娘の父親にありがちな嫉妬のような感情がまったく湧いてこないのに気づいて、何故だろう、とか考えたりもした。

なんだかわかったようなことを書いていやがる
もう9年にもなるのか、あれから
いろんなことがあった、俺も
おそらく、あいつも
もう、わからないことのほうが多い、きっと
わからないことのほうが多いことをあれこれ考えて
何かわかったようなことを言うのは
ひどく馬鹿げているんじゃなかろうか

冬のさなかに春の微風を感じるのは
思い出であるとともにかすかな予感で※

そんな日に生まれたひとりの女が、
未知を歩く
                      ※ 谷川俊太郎 『未知』


自由詩 歩く Copyright 高林 光 2025-05-22 12:57:32
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