迷路へ
花野誉


不思議なもんだな

あの頃の私たちは

そんなに仲良くなかった

むしろ苦手だった

声変わり前の甲高い声で

口うるさく言うから

でも あの日

合唱コンクールの日

詰襟の坊主頭でピアノを弾いていた姿

細く長い指 横顔の美しさに

目が離せずにいた

十年経って

その横顔を助手席から見ている私

山の途中でパンクして焦る彼の隣で

なんだかおかしくなって笑ってしまった

それがいけなかったんだな

別れ際

おとがいにそえられた指が

細くて冷たかったのを今でも覚えている










自由詩 迷路へ Copyright 花野誉 2025-05-21 14:03:12
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