yojin
あらい
geŋ-go-jo-ɾʲi-ne-ba-tsɯ-ku-t͡ɕi-n-mo-ku-to-ʃi-te
「春が、さわれなかった」
接触不良の口腔と言語の死角が絡む濃密部位なので、
逆にそれを「触れた
/障らなかった」「出た
/いなかった」など(
舌が上あごにくっついて)剥いだあとに残る感覚
あめの おり しずむ きせつの はて
どこまでもやわらかく、どこまでくうふくに。
「おもいだして」
燃えかする感触の周縁でうすく
ふれきれなかった指のさき。
漂白された臓腑の憧憬
少女はまるで
二進数の嘔吐を繰り返していた、
抗えない仮死のような律動で。
くうふくは はらのそこを こすりつづける
ʔ… t͡sɯ… p…
ゼ、ゼ、ゼ、
ロ、ロ、いち、…(ʃ)
sɯhɯ…
sɯhɯ… (止)
ʔʔʔʔʔ
三、
拍、
ず、つ…
く る
※ただし、最初のひとつだけが、既に失われていた※
骨格のない電球たちが目を閉じたときにだけ見える、
冬の日溜まりの中で色褪せた写真のように、
ほんの少しだけ、古い輪郭をした「それ」
ha… ha… hɯ…
わたしわたしわたし… ʃɯɯɯ…
それは「それ」
でも
わたしで
でも
わたしよりわたしを知っていた(ʔ)
うまく呼吸できずに たたまれつづけている
ためいきより浅く 祈りよりながい震え
咳き込むたびに あらゆる街路がリブートして
今夜も染色している 棘の群れは 風の残骸
足元に滲んだ影が 猫の形にほどけていく
sɯːːː… ka̠t͡ɕi…
ŋa ʃʲiɾɯ… pɯ̥t͡ɕɯ…
ha… ha… t͡ɕi…
(t͡ɕi̥t͡ɕi̥t͡ɕi̥)
— mo, mo, mo —
(ʔ)
ka̠ɾe, ka̠ɾe…
唯一、あたたかい
木々は数千年分の眩しさで
切り口を隠したままの果実
誰かの手がぼくの袖を引く
散弾に似た思考が 骨董の夜を穿ち
まるで硝子の鈴が鳴るみたいに、軽やかで、そして、やさしかった
決してひらかぬ百眼の茎は 濾過されすぎた朝焼けを吸う
それを知らずに、泡沫を拾いあつめ
羽根のない鳥群として舞い戻る
kʲʲ… ts͡ɯ…
ʔɯ… paʔ paʔ…
ʃʃa—ka… ta…ka… rɯ…
紅 ⇡⇣ (sɯm…sɯm…)
ɲa…ɲa…ɲa (爪)
nn—a—nn—nn
ʃʃʃʃ…(硝・影)
ru—ru—ka…
ki ri ka (瓶)
ri
pi—n pi—n
(青い尾鳴り)
からだのない玻璃たちと 垂直に崩れたまま 整列すら拒む
無窮の肉片を喉奥へ垂らす 風胎のまどろみを軋ませ
反りかえって微笑んでいる 潰れた順に、かすかに熱くなる
そうして、世界は、静かに、深い藍色にしづんでいった
※温度は記憶しない――
けれど、“忘れたこと”だけが 妙に正確だった※
管楽(くだ)のない祝福
まるでそれがしきたりであるかのように
縛っていた、
反照する口蓋に
凍った珪素の臍帯を伝い、まぶたに寄生しては
青白い魚は、嘘くさく思えた。名もなき屍たちの
冷たく腐りかけた手の平のうえで 余燼