悲しい夢を見たあとに
ベンジャミン

悲しい夢を見たあとに
声を上げて泣いてしまったのは
その夢が悲しかったからではなく
その夢が現実にほど近い
記憶だったからかもしれません

昔のことですから
もう数えきれないくらい繰り返して
記憶もすりへっているはずなのに
やたらと鮮明に見えてしまう
もしかしたら
悲しむために泣いているのかもしれない
なんて思えてしまいます
まるで
悲しい夢がいつの間にか
悲しむ夢に変わってしまっていたかのように

けれど
飛び起きた後に一瞬周りを見わたして
自分が何処にいるのかわからなかったり
とっさに押さえた胸の鼓動がもう
手のひらを突き破りそうなくらいでしたから
それはやっぱり
悲しい夢なのでした

夢ですから
刃物のように鋭くとも
この身を本当に切り裂けるはずもなく
通り過ぎればそれはまさしく夢
のような出来事なのですが
それを物語るような涙が
もっともらしく悲しいように流れるので
それはもう
止まるまで待つしかありません

悲しい夢は
いったいどこからやってきて
いったいどこへ消えてゆくのかと
乱れた髪をなだめるように頭を抱えながら
目を閉じればそこにも
もう一人の自分がいるものですから
それはもう嘘だと思いたくなりました

悲しい夢を見たあとに
そんな自分を
悲しく思ってしまうことは止められなくて
こぼれた涙に悲しみがとけているなら
そのぶん軽くなれるはずだと
枕に顔をうずめれば
それをきれいに写し取ったかたちまで
まるで自分のように見えてしまったから

それは仕方なく
優しく抱きしめてあげました

     
     


自由詩 悲しい夢を見たあとに Copyright ベンジャミン 2005-05-29 02:56:35
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