ナイトウォッチ*
ひだかたけし
もはやとほい昔の
父親の葬儀の折、
一番哀しそうな
顔をして居た
普段一番欲深かった叔母さん
昨夜の夢に出て来たのは何故だろう
そう云えば今夜は満月なのだと
ふと想う
天空より抉り出され浮き彫りになり
やはらかやさしくわたしをあやし
あらっ、たけしくん
あの時の叔母さんの
か細くすきとほる声
何十年かぶりに顔を合わせた瞬間の
その響き方の
記憶の奥の声との余りの違いに
驚きながらも僕には構う余裕無く
その昔よりほっそりと痩せた
真白い細面の目の端に焼き付いたまま
妻と娘を連れ死に目に立ち会えなかった父の
遺体の安置された部屋へと急いだ
夢に出て来た最早この世に亡き叔母さんの
やはり真白い細面の焼き付いたまま
この朝に目覚め そこに刻印された想い
彼女の人生の果てに絞り出された
決して消えることなき響き哀しみの
残像余韻の銀白静かさ
ほそおもてゆれゆらら
地に引き留められたままに 、
今宵に鎮まり充ちる満月の月陰に浮き揺れて
*KING・CRIMSON『The Nightwatch Live at the Amsterdam Concertgebouw 』(November 23rd 1973)同名曲より借用