ひび割れた空
まーつん



僕らが互いに
傷つけあうことで

互いの心に
拳を打ちこむことで

五月の空に
広がっていく亀裂

それは、樹のようにも見える
幹の下から仰ぎ見る
真っ白な枝の広がりに

恵む雨ではなく
奪う風を全身に浴びて
一人ひとりの心に
根を張っていく虚しい樹

その枝には
葉が芽吹かず、花も開かず
どんな鳥も、羽休めにとまれない

その枝はただ
無機質な白い線となって
複雑に分かれていく

空をいっぱいに覆うまで



僕らが
互いの心を殴る度に
涙も忘れた目で、見上げる空に
広がっていく白いヒビ

それは、蜘の巣のようにも見える
真っ白な蜘の巣に

自由な発想を捕らえ
身動きを奪い
ただ干からびていくに任せる
僕たち自身の゛恐れ゛が仕掛けた罠

感じないか
足を蠢かせて忍び寄る
捕食者の気配を



僕たちは
同じバスに乗ることで
運命を共にし、旅してはいるが
いつか互いを罵りあい
ハンドルさばきを誤って

車は河に
どぼんと落ちた

事なかれ主義者たちが
さっきまで頬杖をついて
流れる景色を
ぼんやり眺めていた車窓に
ヒビがどんどん広がっていく

やがてそんなふうに
あの空が破れたら
宇宙がどっと流れ込んできて

限られたものの見方を
当たり前に呼吸していた心は
すぐに溺れてしまうだろう

その時
どれほど苦しくても
後の目覚めを思うなら
幸福な死であった
と言える日が

いつか、来るのかもしれない

銀河を自由に泳ぎ回る
魚へと生まれ変わり

どこかの星の
波打ち際に辿りつき

今度はもっと
ましな心を持った
人の形の生き物へと
進化していく

そんな悠久の時を
歩んでいけたら面白い

今を生きる苦しみにも
価値はあるさ、と笑えるだろう



自由詩 ひび割れた空 Copyright まーつん 2025-05-10 04:50:13
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