古い古い一冊の雑誌のような人にわたしはなりたい
ただのみきや

ああ春霞 
それともかすみ目か

大切なのは自分のまぼろしだ
それが大きななにかを映し出した
鏡の砕けた欠片だとしても

預言者はまぼろし中で真実を見る
多くの人は現実にまぼろしを重ね見る
頭とヘルメットの癒着に気づかないまま

いのちは染みを残すだろう

地球の海へ落下した 一個の地球
苦味をまぶしたマシュマロの地球
津波が世界をひとまわり
ミセス・バビロン
その若くつややかな肉体はわなないて
快楽に鳥肌立つ
ほどけそうな唇に
あてがわれた二本の指

世界の終わりには
安物の密造酒
蜘蛛の巣ゆらす羽虫に酔って
格調高く反吐をかけ合おう
開かれた祝祭の門の向こうから
われら人類のつなぎ合わされた姿なき傷跡が
カーニバルの群衆のように
おどけて見える軍隊の行進のように
連結に連結
連続に連続
複雑に編み上げられ
悲しく愚かな
狂気の鎖帷子となって
われらのつめたい思考
煮えたぎる情念の
見えざる糸が手繰り寄せたとはつゆ知らず
今もかすかに残された
原初からの遺産
ささやかな芽吹き
絶望と虚無に対するたましいの
やわらかな抗いさえをも蹂躙し
誰の手にもとって投げやすい
ことばの石ころで埋めつくす

不安の旗印のもと
内気なものが相集い
手負いの獲物を見つけては竹やりで追い立てる
正義の白い粉でも鼻から吸ったのか
鬱憤の真っ赤な花びらを散らしながら
文字が奇声を張り上げる

太陽がまぶしすぎるのか
空が青すぎるのか
わたしは殺す相手を見つけられないでいる

ゆらめく真実の前で
不動を決め込むには
白骨たちは踊り続けるしかなかった
でもその骨はあっちこっち
どこかの誰かから借り受けて
組み立てた不格好なまがいもの
もともとの骨はどうしたの
きみはどこへ消えたんだ

老いた父母をいたわるように
幼子をいつくしむように
この風穴の向こうにあるものに
こころは鳥のよう
決してことばにならないものと
ことばに置き換えることしかできないもの
叶わぬ恋の無理心中
それとも仇か通り魔か

逃げ水の流れ着く
涙の湖から
垂直にそそり立つガラスの声があった
魚たちは鳴き叫び
精液ですべてを白く濁らせた
虚空に掛けられた悲しみの額へ
聴診器を当てるひとびとよ
わたしたちのことばが止血されることはない
名前の書かれていない名札の群れが
残された胎児をとり囲む
わたしもむずかる赤子のよう
快楽になめされることを夢見ながら
息をするのを忘れている


                     (2025年4月20日)











自由詩 古い古い一冊の雑誌のような人にわたしはなりたい Copyright ただのみきや 2025-04-20 12:25:43
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