ハコニワ
栗栖真理亜

こたつテーブルの上
底に茶色い番茶が残ったままの
少しだけノッポなグラス
パレメザンチーズと
粗挽きコショーの入れものと
メガネケースと黒い髪ゴム
それから雪男みたいな図体の
ウルトラ怪獣ウーの小型のフィギュア

まるでそこだけが町で村で
茶色い大地の物語で
気持ちが昂揚してくる
今にも展開してゆきそうな予感すら裏切って
静かに佇む
僕は息を凝らしてじっと見つめてから
鹿子模様に傷ついた大地で
小さく息を吐き出す

先ほど読み終えたばかり
ざらりとした肌触りに
オレンジや青で彩られた表紙の詩集
もうすぐ胎内を巡るだろう
詩人と交信した不信と不審と
それから先々へのヒキツケのような畏怖

「自分はもう若くない」なんて自覚したら
そこからすでに老いの始まりで
まだ筋が入るには早い掌で顔を覆う
枯れてしまった雨粒を搾り出したくて
何度も瞼ごと揉みほぐすけど
ただ目の当たりにした
ミニチュアの町だけがボヤけて
時間は逆さ戻りしない

「自分はまだまだいける」なんて嘯いたら
そこからすでに道化の始まりで
ヒビ割れたファンデーションの下で笑う
逆さ戻りから元通りに直したくなって
ジタバタ地団駄踏みたくなる衝動抑えて
何度も顔をしかめ面にさせるけど
今にも動き出しそうな
ミニチュアたちだけが歪んで
嘘まみれの瘡蓋は剥がれ落ちない

真っ赤に塗られた三日月の唇で
僕は眠りこけて
ハコニワのただなか


自由詩 ハコニワ Copyright 栗栖真理亜 2025-04-09 20:59:36
notebook Home