介護
栗栖真理亜

脊椎管狭窄症となった母
腰から足先までの痛みを訴え
起き上がることも座ることもままならず
歩けば足を引きずっては立ち止まり
痛み止めを強いものに変えてもさほど効果なく
右足にきつく巻きつけられたサポーターが痛々しい
年を経る毎に足も目も耳も完治不能の病に見舞われ
母はこんなはずじゃなかったのにと弱気になる
付き添う私も娘として気が気ではない
どうしてこんなことに
徐々に進行してゆくはずの病は突如母を襲い
自由を奪った
少ない年金を補うための仕事も
生き甲斐としていた趣味の合唱も奪われた
母は精神的に不安定になり
行方不明の弟を想い浮かべ涙するようになった

私のできることはただ
職を見つける手筈を整えながら
少しでも母が快適に過ごせる環境を調えること
そのためならどんなことでも我慢できる
病院やリハビリの付添はもちろんのこと
母の代わりに畑仕事もしよう
ディケア施設のフロアやトイレ掃除もしよう
母の知り合いの年寄りの我儘に付き合って
施設の子供達の為のお菓子の包装作業も手伝おう

母は私とちょうど同じ年頃だった頃
私と弟を連れて父と別居した
私たちを暴力の嵐から救ってくれた
その感謝は決して忘れやしない
今度は私が受けた恩を返す

母を看る
それだけでも母が楽になるならば私が母を介護する


自由詩 介護 Copyright 栗栖真理亜 2025-04-08 21:22:08
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