憂いのとき
栗栖真理亜

いつになったら君の背中に追いつけるのだろう
僕の指は戸惑いに震えて君にしがみつく勇気すらない
灰色に澱んだ空を見上げて黒く濁ったため息をつくばかり
そっと舌先を口のなかで転がせてみるけれど
カサカサに乾いた紅い粘膜が僕の意気地のなさを虚しく嘲笑っているよ

あぁ、 君の顔が消えてしまう
君の声も聞こえない
ただひとり雑踏の中で立ちすくんで僕は泣いているんだ
大粒の涙が雨となって嬉しそうな街を哀しみの色に染めるけれど
君の姿はもうどこにも見当たらない
めまぐるしく移り変わる季節がふたりを引き裂いてしまったんだね

そう、君は蝶のように羽ばたく
金とコバルトブルーの羽根を広げて
私の前から飛び去った
遠い、遠い、世界へと自由に飛び回る蝶

僕の涙で君の羽を濡らし
二度と君が私の前から飛び立てないようにしてしまいたい
そうすることがよりふたりの間を苦しめることになるということを
知っていても

君を縛りつける術がこれしかないなら
もう二度と僕の前から姿を消さないように
柔らかな羽をむしりとってしまいたい

あぁ、臆病で自分勝手な僕を許して
羽ばたきするたびに黄金の粉を撒き散らし
辺りの何気ない花ばなを魅了する君よ
どうか君の情熱的な瞳が他所に移りませんように
僕が君にとって重要な恋人でありますように

僕は運命(さだめ)のままにここで祈ろう

君が僕にとってかけがえのないままでいてくれますように・・・


自由詩 憂いのとき Copyright 栗栖真理亜 2025-04-02 14:53:25
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