あたらしいもの
形代 律

あたらしいものなど何もない
失われて
失われゆく幾十年

あたらしく見えたものは
全部他人のお仕着せだった

地平線を
見たことがあるか
都では地平線が見えない

わたしの住む千住の界隈でも
この頃は
古い家が崩れて
あたらしい高層の家が建つ

庭の木を大事に育てていた
腰の曲がった婆さんはどこに消えたのか
あとから現れたのは
写真のように均斉の合った
土の匂いのない
父と母とその娘

娘はまわりの灌木ほどの背丈もないが
銀の板を片手に
意のままに光と音をあやつる
魔術にすでに長けている

わたしには
他人がゼロとイチの素材で編んだ
リサイクル市場にしか見えないが

お嬢さん
あなたのグーグルは
いつもあたらしい
光と音のお祭りが進行していますか?

あなたは地平線を
見たことがありますか

あたらしいものは
グーグルでも
ルイ・ヴィトンでもなく

あなたが草原を歩き
石の塔によじのぼる

空と陸 あるいは
空と海が目のまえに横たわる瞬間の
からだにひろがる
あざやかな震えのこと

そのとき感じた
光と音 それから風を

いつか互いに
語るときがおとずれたら
いいね


自由詩 あたらしいもの Copyright 形代 律 2025-03-31 15:05:12
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