繭
由比良 倖
*
君と最後の光を見たい。
息を止めて、呼吸を何処までも潜って、
静かに外に、人生が切り売りされているのを、
遠くから眺めて。
*
ガラスのスプーンで君に、私の思い出を飲ませたい。
言葉を組み立てては、怪獣みたいに、
破綻の後に新しい廃墟を建てたい。
道路を斜めに横切るのが好きでした。
斜め好きが高じて世界を知りました。
崩壊した記憶みたいな遊園地で、
言葉を食べるままごとを数十年続けて。
もう解錠してもいい部屋たち、
頭の中の数十万のドア、
血を流した白い床、
一秒間だけ消えては、光る星が置かれているはずです。
*
悲しい雪解け水をバスが走っていく。
見送りながら、見送りながら、
カラフルな墓場を、そして畳の上を行く。
ベニヤ板の乾いた、湿った匂い。
うずくまって喜んでいるみたいに、
または孤独みたいに
、泣きそうだったこと。
期待しない、結局のところ、
自動人形だから私は。
(眼の前のきらきらと、それに見惚れること、そして懐かしさの間に、
境目を本当に付けるべきでしょうか?)
何もかもがただのリアリティ
*****
作曲家よりも編曲家になりたかった
捻れた三角形が好きだった
私の中にはコンクリート建築があって
陽に当たって白々と
それは先祖返りでしょうか?
ガラスの廃校へと
音楽の中をどれだけ溺れつづければ
世界への入り方を、
白い要石を、
そして空気の泡を
掴めるのか、
さすらうようなスピードで
駆け出すよりも、
宇宙の底へと
皮膚を滑り込ませ、
私を沈ませる必要があります
隣のドアへ……
記憶の先端でレモン水を作るように、
青い冬の舞台装置が壊れていく
夜。