由比良 倖


君と最後の光を見たい。
息を止めて、呼吸を何処までも潜って、
静かに外に、人生が切り売りされているのを、
遠くから眺めて。


ガラスのスプーンで君に、私の思い出を飲ませたい。
言葉を組み立てては、怪獣みたいに、
破綻の後に新しい廃墟を建てたい。

道路を斜めに横切るのが好きでした。
斜め好きが高じて世界を知りました。
崩壊した記憶みたいな遊園地で、
言葉を食べるままごとを数十年続けて。

もう解錠してもいい部屋たち、
頭の中の数十万のドア、
血を流した白い床、
一秒間だけ消えては、光る星が置かれているはずです。


悲しい雪解け水をバスが走っていく。

見送りながら、見送りながら、

カラフルな墓場を、そして畳の上を行く。
ベニヤ板の乾いた、湿った匂い。
うずくまって喜んでいるみたいに、
または孤独みたいに
、泣きそうだったこと。

期待しない、結局のところ、
自動人形だから私は。
(眼の前のきらきらと、それに見惚れること、そして懐かしさの間に、
 境目を本当に付けるべきでしょうか?)
何もかもがただのリアリティ

*****

作曲家よりも編曲家になりたかった

捻れた三角形が好きだった

私の中にはコンクリート建築があって

陽に当たって白々と

それは先祖返りでしょうか?

ガラスの廃校へと

音楽の中をどれだけ溺れつづければ
世界への入り方を、
白い要石を、
そして空気の泡を
掴めるのか、
さすらうようなスピードで

駆け出すよりも、
宇宙の底へと
皮膚を滑り込ませ、
私を沈ませる必要があります

隣のドアへ……

記憶の先端でレモン水を作るように、

青い冬の舞台装置が壊れていく

夜。


自由詩Copyright 由比良 倖 2025-03-30 18:27:57
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