帰りみち
由比良 倖

神社からの帰りみち
悲しみをよけて歩いた
鳥居は周りの乾いた葉っぱと同じ色をしていた
私は誰もいないのを見計らって
それでも静かにニック・ドレイクの歌を囁いた

私を見上げる目は暗かった

私はもう、アメリカにも行ったことがあるような気がする
イギリスにも行ったことがあるような気がする
音楽が教えてくれた国にはみんな

誰もいない帰りみち
私は水たまりに両手をひたした
少し掬ってみた
水たまりは底無しの鏡みたいに
暗く冷たく澄んでいる

私を見上げる目は暗い
悲しみさえも砕かれて

誰もいない帰りみち
私はもうニックの歌も口ずさまない
車寄せで嘔吐して

  ひとりひとりが、青白く死に行く
  歓喜の歌を
  聞いたことある?

ニック・ドレイクはきっと
天国で歌っているに違いないけれど

私はそこには帰れない
喪失の笑いが鳴るだけの
おうちに帰る


自由詩 帰りみち Copyright 由比良 倖 2025-03-25 22:55:53
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