帰りみち
由比良 倖
神社からの帰りみち
悲しみをよけて歩いた
鳥居は周りの乾いた葉っぱと同じ色をしていた
私は誰もいないのを見計らって
それでも静かにニック・ドレイクの歌を囁いた
私を見上げる目は暗かった
私はもう、アメリカにも行ったことがあるような気がする
イギリスにも行ったことがあるような気がする
音楽が教えてくれた国にはみんな
誰もいない帰りみち
私は水たまりに両手をひたした
少し掬ってみた
水たまりは底無しの鏡みたいに
暗く冷たく澄んでいる
私を見上げる目は暗い
悲しみさえも砕かれて
誰もいない帰りみち
私はもうニックの歌も口ずさまない
車寄せで嘔吐して
ひとりひとりが、青白く死に行く
歓喜の歌を
聞いたことある?
ニック・ドレイクはきっと
天国で歌っているに違いないけれど
私はそこには帰れない
喪失の笑いが鳴るだけの
おうちに帰る