あまりにも込み入ってだけど在りようとしては単純
ホロウ・シカエルボク
礫塊に埋もれて漆黒の眠り、だけど極彩色の夢を見てた、かろうじて確保された呼吸、無自覚な日々よりもずっと尊いものを教えてくれた、百鬼夜行は毎晩決まった時間に、ままならぬ俺の鼻先をかすめるように…なんでもいい、春の歌が聞きたかった、でも無理みたいだ、欲しいものは決まって手に入らない、ハナからないものねだりだったのかもしれない、だけど欲しがらなかったことを誇りに思うことは出来ない、価値観なんてものを結果に結びつけるのは馬鹿げている、そうだろう?短い人生、叶おうと叶うまいと身構えて吠えるだけさ、生半可な場所で満足してしたり顔をすることなんて死ぬまで出来やしない、共通認識にすべてを預けて、成長をでっち上げるなんて醜いにもほどがあるぜ、あんたにも、あんたにも、誰にも言いたいことなんてない、俺は現実を飲み込んで詩として吐き出すだけさ、そこにはどんな意図も存在しないんだ、いつも言ってるように―無駄口が多いのは不安で仕方がないのかい、まあいい、俺には相手する気なんかないよ、そんな暇があればひとつでも多く書いた方がずっと有意義だからね、あまり自由にはならない時間の中で僅かな隙間に指先を躍らせてる、踊り続けることだよと誰かが言った、それはそうだ、まるで異論は無い、だけど、踊ってるふりをしてるだけのやつらも大勢居る、まあ、こっちにやって来ないならなんでも、好きにやってくれりゃいいんだけどね…大豆のバーを齧りながら鼻を鳴らす、システムが大事なら大人しく社会に含まれればいい、型枠を必要としないのが俺の人生だ、同じようなものを書いているように見えるかい、でも少しずつ変化しているんだ、数年前まではひとつの意志を持った塊であることが大事だと考えていた、内容物にはあまりこだわりはしなかった、でも近頃は、そう―豆を厳選して珈琲を入れるみたいに書こうとしているよ、昔よりも隙の無いものが書きたいんだ、きちんと固めたコンクリみたいなものがさ…水をあまり入れずに丁寧に練り上げたコンクリさ、そいつはドリルを通すのも一苦労なんだ…そう、少し煩いくらいのものを書き上げたいのさ、そうすることがいまは大事なんだ、そうだな、でも―変化にきちんと気付いてくれる人間が居ることは嬉しいね、それが良いと思うか悪いと思うかなんてのはこの際どうだっていい話、大事なのは変化を続けることさ、同じことをやり続けるには特に、変わり続けることは必須科目だ、これは俺に限ったことじゃない、いろんな先人たちがやっていることだ、その時々の欲しいものを、手応えを追い求め続けなければならない、生涯通してひとつの詩を書き上げるのさ、いまはその為にいろいろなアプローチを試しているんだ、最初に手にしたやり方を頑なにやり続けるという方法も確かにあるだろう、それは一見格好良く見える、でもさ、俺にはどうも甘えのように思えて仕方が無いんだよ、国道だけを走り続けたって旅をしたとは言えないだろう?俺の言ってることわかるかな、いろんなやり方に身を委ねるのさ、スタイルが出来上がるのはいつだって最後の方の工程のはずだぜ、わかるだろう、これはまだ出来上がっていない、途中経過に過ぎないんだ、スタイルなんて簡単に出来上がるものじゃない、いや、出来上がってしまったらお終いなのかもしれないな、俺の詩をずらっと並べてごらん、十年くらい前のものからさ―一見同じ羅列型の長ったらしい詩に見える、でも、その一行一行の密度や勢いは常に形を変え続けている、そう、確かに途中までは変える気なんてなかった、俺は自分のスタイルを手に入れたのだと思っていた、でもそれは間違いだったんだ、蜃気楼のようなものだ、在るのか無いのかわからないものだからどこまでも追いかけてしまう、それが一番はっきりと間近で見える場所はあるのだろうかってね、そんなことになにか意味があるのかって?さあね、意味の有無なんてどうだっていい、それに興味を抱いてしまったのなら、納得が行くまで追いかけてみるべきなんじゃないかって思うだけだよ…誰も彼も、そんな行為に意味を求め過ぎるよね、生きるためのナントカとか、自己をより高みに持っていくための手段だとか―書くことをそっちのけにしてそんな意気込みばかり喋ってるやつだって居る、でもそういうやつって、たいていいつの間にか居なくなっちまうんだよな、なにに一生懸命になっている?そういう…自己暗示みたいなことをしていないと不安なのか?そんな労力を使う暇があるのなら一行でも多く書いた方がマシだと思わないか?感性や知識ももちろん大事だが、そいつを適材適所で上手く使うのは場数をこなさないと絶対に無理さ、もっと日常的な視点で、息をするのと同じようなやり方をするべきなんだ、現在地なんか気にしてもしょうがないよ、書き続けるというのは動き続けるということなのだから、測定結果が出る頃には数メートル先辺りに居るのがオチだぜ