『まっちゃんはアスペ』
松岡宮

それはわかい、あまりに若かったころ
「まっちゃんはアスペ、アスペ」
よく友人がそう言って笑った

それは20年とか30年とか前のこと
アスペ、アスペって言葉が舞っていた、雪のように
それはあまりに遠くにあって口に出すのがかんたんだった
精神保健の研究室では研究対象となる当事者がそこにいない想定だった

雪は大地を白で染め、すぐに溶けていった
冬と春のあいだには境界線があった

それはきょう、きょうのはなしだ
たくさんの仲間にであい
いくつかのさようならがあって
東急沿線に東武や西武のエキスが注ぎ込まれ
性別欄の「その他」は拡大し
古い教科書はもう使いものにならない
Barで若者ふたりと知り合いになる、ハッタツの就労移行で出会ったんだ、二人とも就職決まったよと嬉しそう

もう、わかくない、けど、せっせとはたらくわたしが、こころの優しい仲間と出会う

それは、ふしぎ、不思議なこと
大人になって出会う仲間の多くは診断名をもっていた
髪の毛の色はさまざまだったがみんな心が優しかった

もうこれ以上傷つかないで
好きな服を着て好きなヘアスタイルでよいなんて当たり前だよね
言われた言葉を言葉どおりに捉えるなんて当たり前だよね
裏表がないことやうそをつかないなんて当たり前だよね
急な予定変更に気持ちがくずれるなんて当たり前だよね
傷ついた思い出が忘れられないのも当たり前だよね
それは思いや想像が頭の中にしっかり描かれているからそうなるんだよね
もうこれ以上傷つかないで

それはあす、あすのはなしだ
どうして死んじゃったの!わたしだけ生き残ってしまって・・・仲間のみなさん、また会いたいよ、また一緒にくだらない詩と音楽であそびたかったのに・・・どうして死んじゃったの・・・

はっ、夢だった

そしてまた冬が来たのか、雪だ 激しいぼたん雪だ
春にも雪が降りつもることを知った


自由詩 『まっちゃんはアスペ』 Copyright 松岡宮 2025-03-20 10:58:28
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