蒼河
201

真夜中
DIYした椅子に腰かけて
今日の私を
殺す

なぜ
と思う
理由を答えないまま
忘れる

明日の私はその残滓

だった

お前は死ぬべきじゃない
だったら
誰が
死ぬんだと

泣き叫んでいたわたし

わたしたち

優しかった人なんていなかった
傷付いて
痛いから
死が怖かったんだ

あなたは月を解体している
私はぼんやりとそれを眺めて
雨雲のことを
きちんと名前で呼べるようになりたいと思う

たぶん、昨日読んだ本の続きを知りたくて



この世界が
終わらないように
パンを焼き続ける

この世界が
終わらないように
小麦を育てる

この世界が
終わらないように
朝目を覚ます

そのもっとずっと前に
世界は一度か
二度
終わっていて

生き残ってしまった人は
ただ
祈り続けてきた

自分が生むであろう
まだ何も知らない
いのちのことを

過去は変わらない
それなら

この悲しみを
苦しみを
痛みを

もう二度と誰にもあじあわせたくない



世界は美しかった

人が死ぬ

産まれるよりも早く食い続けている間に

渇いて

夜の中で

ひっそりと咲いた百合の花を

ゆりと呼ぶだけの時間



もう誰も立ち入ることのできない森

そこで

きっと神は眠っている

願われることの不幸を忘れて夢を見る



空の向こうには会いたい人達がいた

文脈に乗る

貸しスケート靴を履いて

凍った湖のように

父がよく連れて行ってくれたと

思い出しては笑いながら

そんなに幸せじゃなかったのに

まだ涙が出る



クリーニング屋の店主が
ていねいにしてくれる挨拶のことを
話せないのがつらい
そういう小さな心遣いが人の生活を支えることを
大仰な責任感で忘れてしまう人達が
悲しいと言えないのが悔しい
私にお辞儀をする店員が
何を見ているのか分からなくて
ありがとうございますと
何度も答える


自由詩 蒼河 Copyright 201 2025-03-19 06:27:06
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