再現
リつ



実際、視覚は
それほど大したことじゃないんだ。
現実に見えていることが、
必ずしも真実ではないように。

思い出す。
忠実に。

キミの肌触りは
柔らかく滑って肉厚の花弁、
(ああ、一本三百円の薔薇だ。)
月並みで陳腐な深紅のバラ。
それでも極上の。

キミの匂いは甘く
不自然な
二百円のヴァニラアイスクリーム。
化学薬品で合成した方が、
強く香るんだ。

舐めれば腋下は苦く、
石鹸を齧った後味の悪さを
汗ばんだ口溶けで
消してゆく。
上気した肌から
ヴァニラと
深い杜の
湿った苔の匂いが
混じる。

溢れてる。

濡れた生臭さが
脳髄を直撃するから
キミを貪る
艶めいた肢体の豊饒に
ボクは喰われる


糞っ!
白いシーツの清潔さが邪魔だ。
それに微かなテレビのノイズ。
無神経にもボクの世界を曝す奴は
壊してやりたい。
キミの痙攣が
まさにボクを締め付けていた、
その時に。


なぁ、キミ。
ボクは懐かしいよ。
夢だけで
溶け合って
放たれていた

その純潔が



          日本web詩人会 初出


自由詩 再現 Copyright リつ 2025-03-16 00:45:54
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