フィリア・フォビア
凪目

そんなものは
おもちゃの棒きれだ
細切れの分身がちりつもった
ふわふわと歯ごたえのある肉片
肉をめくってうろこの剥がれた真空に
あなたは隠れている
引っ掻いて蹴倒して引き裂いて
おしっこひっかけて逃げていく
"人殺し"
人じゃなくても
なに殺しででもあったのに

毛皮の焦げるにおいがして
もう一度オーブンの中を覗きこむ
このまま焼いてどうしよう
もっともっと焼け焦げたら

あなたは犬のくつわだ
あなたは涙でできた氷
あなたは高温液体金属
あなたの目の奥で
真っ白にまたたいて
垂れおちていくマグマを
どこまでも眺めている
果てまですみずみ照らし尽くす
ゆっくりとした長いまばたき
すべてを溶かして這い出る雨
いずれ光って消える肉の切れ端

人は人だった
場所は場所で
物は物

どう焦げてる
明るいほうへ手をのばそうとしたよ
空をまさぐって 絡まった糸をひきちぎって 空が見られると思って 落下と上昇に境目がなくなっていった
季節は真夏
または常闇
さようなら
こんにちは
また会ったよね
ここからもあれが見えたよ
こどもが砂をこぼしながら
ひとり寝床へ帰っていくとこ
隠し持った消し炭のひとすくい
今 精一杯ばらまいた
夜の庭で
羽を震わせて
腹をかかえて
消えちまえばいいと笑っていた
ぼくの背中は真っ黒い
こどもの手形にまみれている


自由詩 フィリア・フォビア Copyright 凪目 2025-03-12 20:15:22
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