金の斧と銀の斧
鏡文志
あるところに、大変正直な木こりがおりました。
いつものように、木こりが斧で木を切っていると、手を滑らし、斧を湖に落としてしまいました。
木こりが湖の前で
「はて、どうしたことか?」
と思い悩んでいると、湖から水の精が出て来て、こう言いました。
「おじいさん、貴方が落とした斧は、この金の斧ですか?」
正直な木こりは
「いえ、違います。私が落とした斧は、そんな美しい斧ではありません」
と、答えました。水の精は仕方なく、また湖から顔を出し
「では、貴方の落とした斧は、この銀の斧ですか?」
正直な木こりは、これにも
「いえ、私が落とした斧は、そんな上等な斧ではありません」
そう言われて水の精は、また渋々水の底に潜り、また浮かんできて
「今度こそおじいさん、貴方が落とした斧は、この鉄の斧ですね?」
そう言われて、おじいさんは
「いえ、私が落とした斧は、もう少し先の欠けた鉄の斧です」
「面倒なお爺さんだ。そんな先の欠けた斧で、木を切ってるんじゃあねえよ」
水の精は途端に不貞腐れ、二度と湖の底から戻ってくることは、ありませんでした。
その話をおじいさんから聞いた、これまた正直なおばあさんは
「そんなおかしな話が、ありますか? 最近は水の精までケチになった。その話が本当かどうか? 私が確かめてやります」
そう言っておばあさんは、おじいさんが斧を落とした場所まで自分も同じ鉄の斧を持ってきて、
「エイッ」
と鉄の斧を湖に向かって、投げました。すると再び、湖から水の精が浮かんできて、こう言いました。
「おばあさん、貴方が落とした斧は、この金の斧ですか?」
「いえ、私が落としたのは、そんな美しい斧では、ありません」
「では、貴方が落としたのは、この銀の斧ですか?」
今度は左手で銀の斧を差し出し、おばあさんに見せました。
「いえ、私が落としたのは、そんな上等な斧ではありません」
「うーん、目の前の悪いおばあさんや!」
水の精は今度は、自分の頭の上に突き刺さっている鉄の斧を抜き取ると、こう言いました。
「貴方が落としたのは、この鉄の斧ですか?」
頭を真っ赤にして、戦慄いている水の精を見て、正直なおばあさんは、震えながら、こう答えました。
「ハッ、ハイ! 私が落とした斧は、その鉄の斧です」
その後、お婆さんがどうなったかは、とても言い表すことが出来ません。正直もほどほどに。人間はある程度フラットがいいですねと言葉を残してこの物語を終えたいと思います。