メモ(プラスチック・ビーズ)
はるな

蓋をしたままにしておくというのもひとつの手ですけどね、と医者は言う。でもしめられないです、開いてしまって、それらを解決したいと思ってます。わたしは言う。この指の細い医者と、やっと会話ができるようになった気がすると思っている。医者はわずかに満足そうに、ではそうしましょうと言う、いつものようにパソコンに文字をを打ちこみつつ。

思っているよりもずっと深くに沈んでいるものを引き上げて見ようとしている。見て、どうするのかわからない。そのものを沈めておくためにしてきたことが、(ちょっとよくわからない)。いつもと同じ分量の処方箋をうけとって、いったいなにが問題なんだろうと思ったりもする。眠りにつけないことも、無意味におもえる自傷も、街にはりつく眩暈や動悸も、いったいなにが問題なんだろうと思う。でも、ぜんぜん、生きていくことができないとも思う、そうしたくない、ぜんぜん。

わたしのふるえはまた少しひどくなって、ビーズをテグスに通すことができなくなった。だからいまは少女のころから集めているビーズをいれた箱をあけたりしめたりして眺めて楽しんでいる。もっと大きい、木でできたビーズや穴の大きいプラスチックビーズを通すことはできる。できるけど、あんまりしたくない。

(メモ)

呼吸法を教わったのは2カ月くらい前だ。目を閉じる(とじなくてもよい)、息を吸って吐く(吐くほうが、長く、大事)、思い浮かべる。心地の良い場所や温度を思い浮かべる、息を吸って吐く、吸って吐く、吸って吐く。目を開ける、今ある場所を確認する(触っても良い)、足で、床を(地面を)踏む(三回くらい)。
気持のなかで、本当かな?と思っている、疑うべきでないとすぐに思いなおす、でも、本当かな…と思ってる。本当にそんなことしていいのかな?本当に存在することをしてていいのかなと思ってる。

これはわたしが今までしてきたやり方に似ていて、かつ、とても遠い。
というのは、おびただしく襲ってくる情報と感情の中でめまいがするとき、いつもそこにあるものを数えて、名指して、大丈夫大丈夫…そのときわたしはどこにもいないから。誰にとってもどこにもいないから大丈夫って思ったら歩けた。

そうだ、ふたを開けて、その中身は私です。根付いている。取り出すことはできないと思いました。でもそれを少し憎んでいる。どうしたらいいですか?ふたはもうたぶんできないです。

(ここにいること)じゃなくて(ここにいないこと)でしかいられなかったです。文字のなかにはいられた。それから土を触ってるとき。でも、土を触ってるときも、文字を触ってるときも、わたしはどこにもいなかったから、同じことかもしれない。






散文(批評随筆小説等) メモ(プラスチック・ビーズ) Copyright はるな 2025-02-20 17:25:59
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